愛知県最低賃金1,195円へ|飲食店・美容室・小売店の人件費増と必要売上【2026年】

愛知県最低賃金の55円上昇を3業種の必要追加売上へ置き換えた仮想モデル

愛知県の最低賃金は2026年10月1日に時給1,140円から1,195円へ上がります。時給差は55円。小さなお店では、この数字を月の給与だけでなく、年間で必要になる粗利と売上へ置き換えておきたいところです。

この記事では3つの仮想ケースで計算します。人件費増が似た金額でも、粗利率が違えば必要な売上は大きく変わります。まず自店に近い形で概算し、次に実際の給与台帳と試算表で精査してください。

最初にお断り
以下は対象者全員の時給を55円引き上げ、勤務時間が12か月変わらないという説明用の仮定です。現時点で1,195円以上を支払う人に一律55円の賃上げ義務が生じる、という意味ではありません。

愛知県の最低賃金は2026年10月から1,195円へ

今回の引き上げ幅は55円

愛知労働局の公表では、9月30日まで1,140円、10月1日から1,195円です。差は1,195円−1,140円=55円。愛知県内で働くパート・アルバイトを含む労働者に適用されます。

経営者が確認したいのは「55円」だけではない

給与台帳で改定が必要な人と時間数を見て、月額、年間の負担に直します。
その負担を吸収する粗利はいくら必要か。最後に、自店の商品構成でその粗利を得る売上を考えます。

時給55円の上昇を、対象人数と勤務時間から年間人件費増、必要粗利、必要追加売上へ変換する流れ
図1 時給差を経営数字へ置き換える順序。追加売上は粗利率を用いた簡易試算。

55円アップの影響を飲食店・美容室・小売店で比較

今回の3つのモデルケース

飲食店は5人×月80時間、粗利率60%。美容室は3人×月120時間、85%。小売店は6人×月70時間、30%と置きます。いずれも改定前から改定後まで、対象者の時給差を55円としたケースです。

本モデルは計算方法を分かりやすく説明するために設定した仮想ケースであり、各業種の平均的な従業員数・勤務時間・粗利率を示すものではありません。

月額・年間人件費と必要追加売上

仮想モデル月額人件費増年間人件費増仮定粗利率簡易必要追加売上
飲食店22,000円264,000円60%440,000円
美容室19,800円237,600円85%約280,000円
小売店23,100円277,200円30%924,000円

年間の人件費増は23.76万~27.72万円と近い一方、粗利率で割った必要売上は約28万~92.4万円です。売上だけを目標にせず、「その売上からいくら残るか」を見る理由がここにあります。

仮想3業種の年間人件費増と簡易必要追加売上。飲食店26.4万円と44万円、美容室23.76万円と約28万円、小売店27.72万円と92.4万円
図2 対象人数・時間・粗利率を仮定した比較。業界平均や実績ではありません。

飲食店モデル:年間26.4万円の人件費増をどう考えるか

月2.2万円、年間26.4万円の負担増

55円×5人×月80時間=月22,000円。12か月続けば年間264,000円です。繁忙期と閑散期で時間数が違うなら、月別に計算し直します。

粗利率60%なら簡易計算で44万円の追加売上

264,000円÷0.60=440,000円。人件費が26.4万円増えたからといって、売上26.4万円の増加で埋まるわけではありません。材料費などを引いた後に残る金額から考えます。

1日あたりにすると約1,760円

年間250営業日なら440,000円÷250日=1日1,760円。客単価1,000円の店なら、単純計算では1日約1.8人分の売上です。ただし追加注文の原価、席数、混雑時間帯、廃棄も見なければ、実際の利益改善にはつながりません。

美容室モデル:売上だけでなく単価と稼働率で考える

年間人件費増は23.76万円

55円×3人×月120時間=月19,800円、年間237,600円です。

粗利率85%なら簡易必要売上は約28万円

237,600円÷0.85=約279,529円です。実際は施術メニューごとの材料費や決済費用が異なるため、店全体の一律率だけで施策を決めないようにします。

新規客だけでなく、客単価・リピート・稼働率を見る

空き枠の多い曜日なら次回予約の案内、埋まっている時間帯ならメニュー構成や適正価格の見直しが候補です。店販やオプションは売上額だけでなく、その粗利と施術時間も比べます。値上げによる来店頻度の変化も数か月単位で確認したいところです。

小売店モデル:粗利率が低いほど必要売上は大きくなる

年間人件費増は27.72万円

55円×6人×月70時間=月23,100円、年間277,200円です。

粗利率30%なら簡易必要売上は92.4万円

277,200円÷0.30=924,000円。人件費増の約3.3倍の売上が必要という概算になります。これは「小売業は必ずこの額」という意味ではありません。

「売上高」より「粗利額」を見る

同じ売上でも、高粗利商品の比率、値引き、廃棄、仕入条件で残る額は変わります。売れ筋でも粗利が薄い商品と、適正な粗利を取れる商品を分けて見ます。在庫が増えると資金繰りにも響くため、資金繰り表と一緒に確認します。

なぜ業種によって必要売上が違うのか

ポイントは粗利率

売上100万円で粗利率30%なら粗利30万円、60%なら60万円、85%なら85万円です。計算は「粗利額=売上高×粗利率」。商品・メニューの構成が違えば、同じ業種でも率は変わります。

人件費増は「売上」ではなく「残る金額」から考える

ここでの粗利は売上総利益を使った分かりやすい目安です。会計上、人件費が売上原価に入る業態もあります。賃上げの対象となる人件費をどこに計上しているかを確かめ、重複計算を避けてください。追加販売による決済手数料や販売費が増える場合は、より厳密な限界利益率による損益分岐点の考え方が役立ちます。

自社の粗利率はどこを見る?

直近の損益計算書や月次試算表で、売上総利益÷売上高×100を計算します。売上が月によって偏る店は、単月だけでなく直近12か月も見てください。管理会計での使い方は管理会計入門も参考になります。

最低賃金アップに備えて確認したい3つの数字

①年間人件費はいくら増えるか

一律の時給差なら「時給増加額×対象人数×月間勤務時間×12」。実務では給与台帳から従業員ごとの旧時給・新時給・予定時間を拾い、差額を合計します。1,140円から1,195円に上げる方と、1,180円から1,195円に上げる方の差額は異なります。

②増加分を補う粗利はいくらか

まず年間の追加人件費を、確保したい粗利の出発点にします。社会保険料など会社負担の変動もあれば別に見込みます。営業利益を増やす目標がある場合は、その分も足します。

③その粗利をつくる売上はいくらか

簡易試算:必要追加売上=増加人件費÷粗利率
精査時:必要追加売上=増加する固定費÷限界利益率

後者の限界利益率は、売上から追加販売に伴う変動費を引いて残る割合です。たとえば決済手数料や配送費が増えるなら、粗利率だけの計算より必要売上が大きくなる可能性があります。

人件費増をどう吸収するか:4つの方向

方法① 価格を見直す

一律値上げの前に、原価や手間に対して価格が低い商品・メニューを特定します。セットやオプションの設計も候補ですが、お客さまにとっての価値と説明のしやすさを確かめます。

方法② 客単価を上げる

売上=客数×客単価。無理な追加販売ではなく、組み合わせ提案や再来店のしやすさを見直します。単価だけを追わず、粗利額とリピートへの影響で判断します。

方法③ 粗利率を改善する

商品構成、値引き、仕入条件、原材料ロス、廃棄を点検します。値引きが常態化している商品を一つずつ見直す方が、売上目標を一律に積み上げるより現実的な場合があります。

方法④ 同じ時間から生まれる価値を増やす

予約、シフト、在庫、会計などの重複作業を減らし、接客や販売に時間を回します。POSや予約管理を入れる前に、作業時間と待ち時間を測り、導入後に何が改善したかを確かめます。

人件費増への対応を価格、客単価、粗利率、生産性の4方向で検討する図
図3 施策は単独で決めず、粗利額、顧客への影響、運用の手間で比較する。

実際には「55円×勤務時間」だけでは済まない場合もある

最低賃金を上回る人の賃金にも影響する場合がある

役割や経験に応じた賃金差を保つため、1,195円以上の方についても賃金を見直す経営判断はあり得ます。ただし全員を55円上げる法的義務があるわけではありません。

社会保険料などの企業負担も確認する

加入状況や給与の変化によって、会社が負担する社会保険料等が変わる場合があります。対象者、保険料の見込み、給与支払日を確認し、賃上げによる損益と現金支出を分けて整理します。

概算のあと、自社データで精査する

まず上の式で概算し、給与台帳の個人別差額、月ごとのシフト、直近の粗利率と変動費率、最後に利益とキャッシュの違いを確認します。支払いが先で売上の回収が後になる店では、年間の採算が合っていても月々の資金余力を見ておく必要があります。

使える支援策がないか確認する

業務改善助成金の受付は9月30日まで

2026年度の愛知労働局の案内によると、交付申請は9月1日から、地域別最低賃金発効日の前日か11月30日の早い日まで。今回は9月30日が期限です。書類が不備なら返戻され得るため、利用を考える場合は公式の要綱・マニュアルと窓口で直ちに要件を確認してください。

この助成金は、事業場内最低賃金の引上げと生産性向上につながる設備投資等を組み合わせる制度です。地域別最低賃金が上がるだけで自動的に受給できるものではありません。交付申請前に引上げや設備投資を実施すると対象外になり得る点にも注意が必要です。10月以降は受付状況を再確認し、期限切れならこの案内を更新します。

設備投資は生産性向上とセットで考える

補助額を先に目標にせず、何時間の作業を減らし、その時間をどの付加価値業務に使うかを決めます。機器の費用、保守、スタッフへの定着まで見積もって判断します。

まとめ:「55円」を自社の経営数字に置き換える

時給差を人数と勤務時間で年間人件費に直し、その負担を補う粗利と売上を計算する。数字が出たら、価格、客単価、粗利率、生産性のどこに余地があるかを選びます。今回の3ケースは入口です。自店の給与台帳、試算表、資金繰り表に置き換えて初めて、実行する施策が見えてきます。

Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所では、小規模事業者の財務・資金繰りと、売上や業務の改善を数字から整理しています。まずは上記の関連資料で自店の数字を確かめ、必要に応じて事務所案内をご覧ください。

参考資料

(2026年9月27日確認)
・愛知労働局「愛知県の最低賃金」
・愛知労働局「業務改善助成金」
・厚生労働省「業務改善助成金」

※本文の3業種の数値例・図表は当事務所が設定した仮想ケースに基づく試算です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の実例に基づくシミュレーション等についてご質問等がありましたら個別に当事務所へお問合せください。

この記事を書いた人

Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所
Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所
渥美 友道|中小企業診断士

Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所 代表。金融機関に勤務しながら、副業で中小企業診断士として活動しています。

本業では、営業、経営企画、DX推進などの業務を経験。現在も金融の現場に立ちながら、中小企業の経営改善、財務・資金繰り、事業計画、DX・Web活用などを支援しています。

副業だからこそ、日々の実務で得た感覚や変化を経営支援に持ち込めることを強みとしています。机上の理論だけでなく、現場で使える考え方を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

中小企業診断士 登録番号:425952

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