利益とキャッシュはなぜ一致しない?中小企業経営者が知っておきたい資金繰りの基本

利益とキャッシュの違いを説明したブログのサムネイル

「決算では利益が出ているのに、なぜか会社の預金残高が増えていない」

経営をしていると、こんな疑問を感じることがあります。

実は、これは決して珍しいことではありません。

会計上の「利益」と、会社に実際に残っている「現金(キャッシュ)」は、そもそも同じものではないからです。

私は金融機関で企業の決算書や資金繰りを見る業務に携わる一方、中小企業診断士として企業支援にも取り組んでいます。

その経験から感じるのは、経営者が「利益」だけでなく「お金の流れ」まで理解できるようになると、自社の経営状態がかなり立体的に見えてくるということです。

この記事では、

  • なぜ利益と現金が一致しないのか
  • 黒字でも資金繰りが苦しくなるのはなぜか
  • 経営者はどの数字を確認すればよいのか

を、できるだけわかりやすく解説します。

※本記事は一般的な財務・経営管理について解説するものであり、個別企業の融資判断や金融機関の審査基準を示すものではありません。

利益とキャッシュは別物

まず押さえておきたいのは、

利益=会社に残った現金

ではないということです。

利益は、一定期間の売上から費用を差し引いて計算します。

一方、キャッシュは文字どおり、会社に実際に入ってきたお金と出ていったお金の結果です。

この2つには「タイミングのズレ」があります。

例えば、100万円の商品を販売したケースを考えてみましょう。

商品を納品した時点で100万円の売上を計上しても、取引先からの入金が2か月後なら、販売した時点では会社の預金は100万円増えていません。

しかし、その間にも給与、家賃、仕入代金、借入金の返済などの支払いは発生します。

つまり、

帳簿上は利益が出ていても、支払いに使える現金が十分にあるとは限らない

のです。

ここを理解することが、資金繰り管理の第一歩です。

利益が出ているのに現金が減る4つの代表例

利益とキャッシュがズレる原因はいくつもありますが、中小企業の経営では特に次の4つを押さえておくと理解しやすくなります。

1.売掛金が増えている

商品やサービスを提供して売上を計上しても、入金が翌月や翌々月であれば、その間は売掛金として残ります。

例えば、

  • 今月の売上 1,000万円
  • そのうち未回収の売掛金 600万円

という状態なら、損益計算書には売上が計上されていても、600万円はまだ現金として入ってきていません。

売上が伸びている企業ほど、売掛金も増加して運転資金が必要になることがあります。

「売上が増えたのだから資金繰りも楽になるはず」

とは限らないのが、経営の難しいところです。

2.在庫が増えている

商品や原材料を仕入れると現金は出ていきます。

しかし、仕入れたものが在庫として残っている場合、そのすべてがその時点で費用になるわけではありません。

その結果、

利益には大きく影響していないのに、現金だけが先に減っている

という状態が起こります。

在庫そのものが悪いわけではありません。

問題は、販売見込みを超えて過剰に積み上がっている在庫です。

経営を見るときには、在庫を単なる「商品」ではなく、

現金が一時的に姿を変えたもの

という視点で見ると、資金繰りとの関係が理解しやすくなります。

3.借入金の元金を返済している

ここは特に誤解されやすいポイントです。

借入金の返済には、

  • 元金
  • 利息

があります。

利息は費用になりますが、元金の返済は基本的に費用にはなりません。

そのため、例えば年間500万円の利益が出ていたとしても、借入金の元金返済が年間600万円あれば、単純化すれば利益以上の現金が返済に出ていくことになります。

もちろん実際の資金繰りは、減価償却費や設備投資、税金、売掛金・買掛金の変動なども含めて考える必要があります。

重要なのは、

「利益が出ているから返済できる」と単純には判断できない

ということです。

4.設備投資をしている

機械や車両、システムなどを購入すれば、購入時にはまとまった現金が出ていきます。

一方、会計上はその支出のすべてをその年の費用にするのではなく、原則として耐用年数などに応じて減価償却していきます。

例えば500万円の設備を現金で購入すれば、その時点で500万円の現金は減ります。

しかし、損益計算書には500万円全額がそのまま費用として出てくるとは限りません。

これも「利益」と「現金」が一致しない理由の一つです。

「黒字だから安心」とは限らない

利益が出ている企業でも、支払期日に必要な現金を用意できなければ、経営を継続することは難しくなります。

いわゆる「黒字倒産」が起こり得る理由です。

ただし、

黒字企業は危険である

という意味ではありません。

大切なのは、利益と資金繰りを別々に確認することです。

私は企業の数字を見るとき、損益計算書だけを見るのではなく、

  • 現預金はいくらあるか
  • 売掛金が増えていないか
  • 在庫が増えていないか
  • 借入金の返済額はいくらか
  • 今後大きな設備投資や納税がないか

といった点もあわせて確認します。

一つの数字だけで会社の状態を判断しないことが重要です。

簡単な数字で考えてみよう

例えば、ある会社が次の状態だったとします。

年間利益:500万円
減価償却費:200万円
借入金の元金返済:600万円
設備投資:300万円

かなり単純化した例ですが、

利益だけを見ると、

「500万円も黒字だから順調だ」

と感じるかもしれません。

一方で、キャッシュの動きを考えると、

500万円の利益
+200万円の減価償却費
-600万円の借入返済
-300万円の設備投資

となり、これだけでも資金面ではマイナス方向に動きます。

さらに売掛金や在庫が増えれば、必要な運転資金は大きくなる可能性があります。

このように数字を並べると、

利益を見るだけでは経営状態を十分に把握できない

ことがわかります。

経営者が毎月確認したい3つのポイント

では、具体的に何を確認すればよいのでしょうか。

複雑な分析を始める前に、まずは次の3つからで十分です。

① 月末の現預金残高

まずは非常にシンプルに、

「会社のお金が前月より増えたのか、減ったのか」

を確認します。

減っているのであれば、

「なぜ減ったのか」

まで考えることが重要です。

設備投資による一時的な減少なのか。

売掛金の増加なのか。

在庫の増加なのか。

本業そのものから現金が生み出せていないのか。

原因によって取るべき対応は変わります。

② 売掛金と在庫

売上が増えているのに現金が増えない場合は、売掛金や在庫の増加を確認してみてください。

特に急成長している会社では、

売上増加→運転資金増加→資金繰り悪化

ということも起こります。

「売上が伸びているから問題ない」と考えず、お金がいつ入ってくるのかまで見ることが大切です。

③ 6か月程度先までの資金予定

可能であれば資金繰り表を作り、

  • 売上代金の入金
  • 仕入代金の支払い
  • 人件費
  • 家賃
  • 税金・社会保険料
  • 借入金返済
  • 設備投資

などを月ごとに並べてみましょう。

ポイントは、過去を記録するだけではなく、

将来の資金残高を予測すること

です。

「3か月後に資金が不足しそうだ」と事前に分かれば、打てる手は増えます。

不足してから考えるのと、不足する前に考えるのでは、経営上の選択肢が大きく違います。

資金繰り表は「金融機関に見せるため」だけのものではない

資金繰り表というと、

「融資を受けるときに銀行へ提出する書類」

というイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかし、本来は経営者自身が意思決定するための資料です。

例えば、

「半年後に設備を買っても大丈夫か」

「人を1人採用しても資金は回るか」

「値上げしない場合、いつ資金が苦しくなるか」

といった経営判断をするときにも役立ちます。

資金繰りを管理する目的は、単に「お金がなくならないようにする」ことだけではありません。

将来の経営判断を、勘ではなく数字で考えられるようにすること

だと私は考えています。

まとめ:利益と現金の両方を見る

利益とキャッシュには、それぞれ違う役割があります。

利益は、会社の事業活動がどれだけ収益を生み出したかを見る重要な数字です。

一方、キャッシュは、会社が日々の支払いや投資を続けていくために欠かせません。

どちらか一方だけを見ればよいわけではありません。

経営者として押さえておきたいのは、

「利益が出ているか」と同時に、「その利益がどのように現金につながっているか」を見ることです。

まずは毎月、

  1. 現預金
  2. 売掛金・在庫
  3. 借入金返済
  4. 今後の入出金予定

を確認してみてください。

これだけでも、自社のお金の流れはかなり見えやすくなります。

決算書は「税務申告のための書類」だけではありません。

数字の意味を理解すると、経営判断のための情報として使えるようになります。

Office LOTUSでは、財務数値を単に分析するだけではなく、「その数字から何を考え、次にどんな行動を取るか」という視点を大切にしています。

自社の利益と資金繰りの関係を一度整理してみたい方は、お問い合わせください。


参考情報

本記事の内容を確認する際には、日本政策金融公庫が公開している「決算書の見方」「黒字なのにお金がない理由」「資金繰り」に関する経営情報も参考にしています。

※企業ごとに財務状況、取引条件、借入条件等は異なります。本記事は一般的な経営管理の考え方を解説するものであり、個別企業への融資可否その他の判断を示すものではありません。

この記事を書いた人

Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所
Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所
渥美 友道|中小企業診断士

Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所 代表。金融機関に勤務しながら、副業で中小企業診断士として活動しています。

本業では、営業、経営企画、DX推進などの業務を経験。現在も金融の現場に立ちながら、中小企業の経営改善、財務・資金繰り、事業計画、DX・Web活用などを支援しています。

副業だからこそ、日々の実務で得た感覚や変化を経営支援に持ち込めることを強みとしています。机上の理論だけでなく、現場で使える考え方を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

中小企業診断士 登録番号:425952

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