初回割引で終わらせない。小さなお店が「2回目の来店」を増やすには

初回限定のクーポンを出したら、新しいお客様が来てくれた。
予約表が埋まるのはうれしいことです。
一方で、その後の予約を眺めて、「あのお客様は、また来てくれるだろうか」と気になることもあるのではないでしょうか。
そこで次の割引を考える前に、確かめたいことがあります。
お客様は初回の体験をどう感じ、次にどんな用事ができたとき、この店を選ぶのでしょうか。
初回割引は、来店のきっかけになります。ただ、次も選ばれる理由は、別に考える必要があります。
戻らない理由を決めつけず、体験・利用する機会・予約のしやすさを見直し、再来店が利益につながるかまで確かめてみましょう。
今回は小さな美容室を例に、顧客体験と採算の両面から、2回目の来店について考えます。
初回割引と、次も選ばれる理由は別
初めての美容室を選ぶとき、仕上がりや雰囲気が自分に合うかは、まだ分かりません。
初回割引があれば、試してみようと思うきっかけになるでしょう。
クーポンなどで購入・利用を後押しする取り組みは、販売促進、セールスプロモーションと呼ばれます。まず体験してもらう方法については、試食・テスター・試供品の効果と使い分けでも紹介しています。
ただ、初回に来てくれたことだけでは、次に選ばれる理由までは分かりません。
技術が気に入ったのか、相談しやすかったのか、通いやすい場所だったのか。
それとも、今回の割引価格で利用できることが一番の魅力だったのか。
次回の料金を含めて、何に納得してもらえたかを考える必要があります。
ここで、2回目に来ないお客様を「割引目当てだった」と決めつけるのは早計です。
髪を整える時期がまだ来ていないかもしれませんし、予約したい曜日に空きがなかった可能性もあります。
理由が違えば、見直す場所も変わります。
予約枠が合わない人に割引を追加しても、その不便は解消されません。
施術や接客に不満があった人には、まず体験そのものの改善が必要でしょう。
値引き額を増やす前に、何が次の来店を妨げているのかを確かめる。
これを、再来店施策を考える出発点にしたいと思います。
「満足した」と「また来る」の間にあるもの
料金に対する納得感を考える「知覚価値」
日本生産性本部のJCSI(日本版顧客満足度指数)では、品質と価格を比較した評価である「知覚価値」、利用後の「顧客満足」、今後の利用への意向を表す「ロイヤルティ」を分けて捉えています。[1]
知覚価値は、平たくいえば、受けたサービスがその料金に見合うと感じられたか、ということです。
安さだけでなく、仕上がりや相談のしやすさも、その納得感を考える材料になります。
接客
接客
初回料金では納得していても、次回の通常料金を知らなければ、同じように選んでもらえるかは分かりません。
価格を伝えることと、その価格で受けられる内容を伝えることは、セットで考えたいところです。
また、JCSIの再利用意向は、実際の来店記録ではありません。
「また行きたいと思っている」と「予約して来店した」の間には、予定や利用機会なども関わります。
施術の前後まで含めて見る「顧客体験」
顧客体験(CX)は、お客様が店を知り、予約し、サービスを受け、その後に至るまでの接点で感じる体験です。
美容室なら、仕上がりだけでなく、予約の分かりやすさや、希望の伝えやすさにも目を向けられます。
リクルートが2026年3月に公表した「美容サロン顧客満足調査2025」では、美容室を変更した、または変更を考えた女性の不満として、技術に加え、スタッフの気遣いや会話に関する項目も挙がっています。[2]
美容室利用者の意向を尋ねた調査であり、実際の再来店率を測った結果ではありません。
この調査を自店に引き寄せて考えるなら、接客を一律に増やすより、お客様に合っていたかを確かめたいところです。
相談したい人もいれば、静かに過ごしたい人もいます。
店がよいと思う接客と、お客様が望む接客が一致しているとは限りません。
私が大切にしたいのは、「満足してもらえたか」に加えて、「何に納得し、次はどんなときに利用したいのか」まで考えることです。
会計時の反応だけで結論を出さず、本人が話しやすい範囲で、仕上がりや自宅での手入れについて困りごとを聞いてみる。
その小さな確認が、見直す手がかりになります。
2回目の来店につながる、3つの見直し
ここからは、原因を調べるための実務上の整理です。次の表を手がかりに、心当たりのある場所から確認してみてください。
2回目に来ない理由で、見直す場所は変わる
| 確認する場所 | 考えられる理由 | まず確かめること |
|---|---|---|
| 初回の体験 | 期待した内容や料金と違った | 案内と実際の内容、お客様の声 |
| 次の利用機会 | まだ必要な時期ではない | 利用目的、手入れの目安、本人の希望 |
| 予約・再接点 | 思い出せない、予約しにくい | 案内の届き方、予約手順、空き枠 |
Office LOTUSによる実務上の整理。原因の順位や、効果が実証された分類を示すものではありません。
① 初回体験と期待のずれを減らす
クーポンの対象メニュー、追加料金、所要時間、次回の通常料金。
まずは、予約前に分かる内容と、来店後に説明する内容を確認します。
料金だけでなく、希望する仕上がりや、自宅でどこまで手入れができるかも確かめたいところです。
店内で整った髪型でも、自分では扱いづらければ、利用後の評価は変わるかもしれません。
会話の量も含め、お客様の希望を聞いて調整します。
② 次に利用する場面を具体的にする
美容室なら、髪型を保つための手入れの目安や、次に気になりそうな点を、本人の希望に合わせて案内できます。
「また来てください」という挨拶に、次に相談できる内容が加わると、お客様も利用する場面を思い浮かべやすくなるでしょう。
飲食店なら次に試したい料理や家族での食事、小売・ECなら使い方の相談や補充の時期に置き換えて考えられます。
不要な買い替えや、本人が望まない予約を勧める必要はありません。
③ 思い出して、行動しやすくする
利用したくなったとき、予約先はすぐ分かるでしょうか。
スマホで予約を試し、メニューの違いや空き枠が分かるか、お客様の立場で確認してみます。
接点を整えるために、独自アプリを開発する必要はありません。
LINEのショップカードには、来店や購入に応じたポイントを発行・管理する機能があります。[3]
HOT PEPPER Beautyにはお客様がサロンを探して予約する接点があり、店舗側では予約を管理できます。[4]
大切なのは、使う目的です。
次の利用時期に役立つ情報を届けたいのか、予約の手間を減らしたいのか。
ショップカードなら、普段の来店頻度で特典に届く設計か、店の負担は続けられるかも考えます。
サービスの料金や利用条件は、導入時に確認しましょう。
お店との接点が日常に溶け込むとは、お客様に必要な場面で、自然に思い出して使ってもらえることだと私は考えます。
毎日開いてもらう必要はなく、月に一度の予約でも構いません。
本人が望む情報や頻度を大切にし、友だち数や配信数の多さだけで判断しないことです。
再来店は増えた。それで利益は残るか?
来店履歴を追える店・追えない店で、確認方法を変える
予約履歴などで同じお客様を識別できる店は、「2回目来店率」を確認できます。
本記事では、初回来店から一定期間以内に、実際に2回目の来店があった人の割合とします。
2回目来店率=一定期間内に2回目の実来店があった人数÷その期間を観察できた初回来店客数×100
例えば60日以内を調べるなら、初回来店から60日以上たった人を対象にします。
来店して間もない人を分母に含めず、2回目を予約しただけの人やキャンセルした人も、実来店に数えません。
期間は自店の利用周期に合わせて決めます。
一方、同じ人か分からない飲食店や小売店は、正確な率を無理につくる必要はありません。
差し支えない範囲で初めての利用か、何をきっかけに来たかを聞き、分かる材料から始めます。
ただし、来店中の人の声だけでは、戻っていない人の理由までは分かりません。
識別できるお客様だけで集計した場合も、その範囲の数字です。
値引きの有無で率に差が出ても、客層や時期が違えば、値引きの効果とは言い切れません。
集客費用まで含めて考える
次に見たいのが、限界利益です。売上から、材料費や決済・予約手数料など、売上や利用に応じて増える変動費を差し引いた金額で、家賃や固定給などの回収と利益に回ります。
以下は説明用の仮定です。通常価格4,000円、初回割引1,000円、各回の変動費を1,600円とします。
さらに、新規のお客様1人を獲得するために追加の広告費等が2,000円かかった場合を考えます。金額はすべて税抜です。
| 項目 | 初回 | 2回目・通常料金 |
|---|---|---|
| 割引後の売上 | 3,000円 | 4,000円 |
| 変動費(仮定) | 1,600円 | 1,600円 |
| 1回当たりの限界利益 | 1,400円 | 2,400円 |
| 上記とは別の追加広告費等 | 2,000円 | 0円 |
| 広告費等を差し引いた貢献額 | ▲600円 | 2,400円 |
固定費を引く前の説明用試算。2回目への追加の値引き・販促費はないと仮定しています。
初回の限界利益では、追加広告費等を600円回収しきれていません。
ここで、所定の期間内に2回目に来る確率を30%と仮定すると、初回客1人当たりの期待額は
「▲600円+2,400円×30%=120円」になります。
10%なら▲360円です。
これは30%を目標にすべきという意味ではなく、料金・費用・再来店の見込みで判断が変わるという例です。
この金額は営業利益でも、手元に残る資金でもありません。
家賃や固定給、月額利用料などは別に回収する必要があります。
次回も割引したり、販促費が追加でかかったりすれば、計算は変わります。
割引は売上に反映しているので、同じ額を費用として再び引かないようにします。
予約枠が埋まっている店では、別のお客様を受け入れる余地にも目を向けたいところです。
何人戻ったかと、費用を含めて何が残ったかを、一緒に確かめる。
店舗全体の採算へ広げて考える方法は、損益分岐点売上高の計算方法で解説しています。
クーポンを増やす前に、1人のお客様から見直す
まずは、直近に初めて来てくれたお客様を1人思い浮かべてみてください。
何をきっかけに来店し、何を望み、次に利用するときの案内はどうなっていたでしょうか。
すべてを把握できなくても、予約画面を開く、料金の説明を見直すなど、確かめられることはあります。
そのうえで、新しい割引が必要なのか、別の不便を先に解消すべきなのかを考えます。
お客様がまた選びたいと思える理由と、お店が続けられる採算。
その両方を整えることが、小さなお店のリピートづくりでは大切だと考えています。
Office LOTUSでは、再来店に向けた取り組みや販促の採算を、一緒に整理するご相談を承っています。通常価格、割引額、材料費、販促費、分かる範囲の来店記録があると検討しやすくなります。資料がすべてそろっていなくても、お問い合わせからご相談ください。
出典・参考資料
- 日本生産性本部「統計手法(JCSI因果モデルとは)」。知覚価値・顧客満足・再利用意向の定義を参照。
- リクルート ホットペッパービューティーアカデミー「美容サロン顧客満足調査2025【美容室編】」(2026年3月26日公表)、3・5ページ。本文で触れた不満の設問は、20〜59歳の女性の変更意向者300人への複数回答。来店から施術・仕上がり確認までの不満を尋ねたもの。変更意向者は、利用時に嫌な思いをし、店を変えた、または変えようかと思った回答者。
- LINEヤフー「ショップカードのアップデートについて」。ポイント発行・管理という機能の説明を参照。
- HOT PEPPER Beauty「集客・広告・予約管理について」。検索・予約・店舗側の予約管理について参照。
着想のきっかけとして、佐藤嘉彦氏「購買の6割超がアプリ会員のスギ薬局 CDOが語る『アナログとAIの融合』」(日経クロストレンド、2026年10月9日、有料記事)を読みました。本稿の小規模店向けの整理・提案・試算は、Office LOTUSによる考察です。
※美容室などの場面は説明用の例であり、特定店舗の支援実績や筆者の体験談ではありません。試算は業界平均や達成実績ではなく、3回目以降の利用、固定費、税金、資金回収の時期を含みません。広告費等2,000円は、この集客で追加発生した費用の仮定であり、固定掲載料を人数割りしたものではありません。費用の区分や予約枠の余力は各店で異なります。顧客情報は利用目的に必要な範囲で、適切に管理してください。
出典・サービス情報の確認日:2026年10月23日
この記事を書いた人

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渥美 友道|中小企業診断士
Office LOTUS あつみ中小企業診断士事務所 代表。金融機関に勤務しながら、副業で中小企業診断士として活動しています。
本業では、営業、経営企画、DX推進などの業務を経験。現在も金融の現場に立ちながら、中小企業の経営改善、財務・資金繰り、事業計画、DX・Web活用などを支援しています。
副業だからこそ、日々の実務で得た感覚や変化を経営支援に持ち込めることを強みとしています。机上の理論だけでなく、現場で使える考え方を、できるだけ分かりやすくお伝えします。
中小企業診断士 登録番号:425952
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